65〕〈参考〉借地借家法
土地の利用権には、大きく分けて、建物の所有を目的とするもの(一般に借地権)と、建物の所有以外を目的とするもの(通路・駐車場等に利用)とがあります。建物の所有以外を目的とする土地利用権には、民法の規定が適用されます。建物の所有を目的とする土地利用権には、民法の他に特別法としての借地借家法(旧借地法を含みます)が適用されます。
建物の所有を目的とする土地利用権(以下では単に「借地権」といいます)は、平成4年8月1日に借地借家法(いわゆる新法)が施行されてから、その種類が増えることとなりました。新法の施行前から設定されていた借地権は、多くの事項について旧借地法(旧法)が適用されます。
借地権は、大別して、地上権と賃借権があります。この点は、新法も旧法も同じです。
地上権は、その法的性質が物権であるため、譲渡、転貸、抵当権の設定などに地主の承諾を必要としません。
これに対して、賃借権は、法的性質が債権であるため、譲渡、転貸などには地主の承諾が必要です。
建物の利用権は借家権と呼ばれており、民法の他借地借家法が適用され、また、良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法が平成12年3月1日に施行され、借地借家法の借家部分に定期建物賃貸借(いわゆる定期借家権)が創設されました。
また、高齢者の居住の安定確保に関する法律が平成13年8月5日に施行され、高齢者を賃借人とする終身建物賃貸借契約が一定の要件の下に認められることとなりました。
そのため、重要事項説明に際しては、普通の借家権・期限付建物賃借権・定期借家権・終身建物賃借権の区別が必要となります。
1.借地権の種類と特徴
借地権は、旧法上のものと新法によるものとに区別されます。その種類と内容は次のとおりです。
●既存の借地権(平成4年7月末に既に存在していた借地権)
借地期間満了時に貸主に正当な事由がなければ、契約の更新を拒絶できません。借地期間は次のとおりです。
●堅固造の建物の所有目的の場合・・・期間を定めない場合は自動的に60年
期間を定める場合は30年以上
(更新後の期間)・・・合意で定めるなら30年以上
法定更新は30年
●非堅固造の建物の所有目的の場合・・・期間を定めない場合は自動的に30年
期間を定める場合は20年以上
(更新後の期間)・・・合意で定めるなら20年以上
法定更新は20年
●普通借地権
堅固、非堅固の区別なく、契約期間は30年以上とされています。契約期間を定めない場合は、自動的に30年となります。
借地期間満了時に地上に建物が存在している場合には、貸主に正当な事由がなければ、契約の更新を拒絶できません。
更新後の期間は、初回に限り20年以上、その後は10年以上になります。
●定期借地権(いわゆる一般定期借地権)
新法によって創設された借地権の1つです。借地期間は50年以上です。これより短くすることはできません。
借主に契約更新権はありません。
契約は公正証書によるなど、書面によることとなっています。
●建物譲渡特約付借地権
新法によって創設された借地権の1つです。借地期間は30年以上です。契約時に、30年以降の約定の時期に、建物を相当の対価で地主に譲渡する特約をする借地契約です。
建物の譲渡により、土地の建物の所有者が同一となり、借地権が消滅し、借地契約が終了するのです。
地上建物の利用者(入居者または借地人)は、その後、建物の賃借人として新法23条2項の保護があります。
●事業用借地権
新法によって創設された借地権の1つです。専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除きます)の所有を目的とします。
期間は10年以上50年未満です。
これらの条件を満たさないものは、自動的に普通借地権になります。
契約は必ず公正証書によります。公正証書作成時が契約の成立時とされます。したがって、いわゆる契約書は、この公正証書になります。
●一時使用目的賃借権
臨時設備の設置その他一時使用のための賃貸借を設定する場合等、一時使用を目的とする賃貸借をいいます。
旧法や新法の借地権保護規定の多くのものの適用がないものです。
なお、借地権は登記できますが、登記がない場合は、土地上に借地権者が登記された建物を所有するときは、第三者に対して借地権を対抗することができます。
また、借地上の建物が滅失した場合でも、土地上に一定の掲示をし、2年以内に再築して登記をしたときは、借地権者は第三者に対抗できます。
2.借家権の種類
定期借家制度が創設される以前は、民法および借地借家法によって認められる普通借家権と期限付借家権(不在期間中の借家権と建物取壊し予定の借家権)が存在しましたが、定期借家制度の施行後は、不在期間中の借家権が定期借家に変化しました。それぞれの概要は次のとおりです。
●普通借家
契約期間が1年以上の期間の定めのある借家と、期間の定めのない借家とがあります。
●期間の定めのある借家
契約期間が1年以上の定めがある借家契約で、期間満了時に借主は更新請求ができ、貸主は正当事由がないと更新拒絶できません。
●期間の定めのない借家
期間をそもそも定めないか、1年未満の定めをしたために定めのないものとみなされたか、上記①の借家が期間満了時に合意更新できず、法定更新した場合の借家です。
これには、期間満了という概念はないので、借主はいつでも自由に解約の申し入れをすることができ、申し入れから3か月後に借家契約が終了します。
他方、貸主が解約申し入れをするには正当事由が必要であり、それがないと解約申し入れはできません。正当事由が存在した場合には、解約申し入れから6か月後に借家契約が終了します。
●確定期限付借家契約など
旧法上、貸主が転勤、療養等で、一定期間自己の建物を生活の本拠として使用することが困難な場合に、その間だけ借家することを認めるもの(不在期間中の借家)と、建物が法律や契約により将来、取壊しが予定されている場合に、取壊しまでの間借家を認め、取壊し時期に契約が終了する借家(取壊し予定の建物の借家)とがありましたが、定期借家制度ができたことにより、前者は定期借家に解消されることになりました。
●定期借家
「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が平成12年3月1日に施行されたことにより、借地借家法の期限付建物賃貸借が改正され、更新をしない借家契約が創設されました。
契約期間の定めは長短自由で(1年未満でも可)、建物の種類(居住・非居住)の区別もなく、契約を更新しない特約を付したものです。
ただし、次の要件を満たすことが必要です。
●契約締結前に、貸主が借主に対し、更新ができない定期借家である旨を記載した書面を交付して説明すること(これを怠ると、更新しない特約部分が無効となります)
●契約は必ず公正証書等の書面によること
●契約期間が1年以上の場合には、貸主は、借主に対し、契約期間の満了の1年前から6か月前までの間に、期間満了により契約が終了する旨を通知しなければなりません。これを怠ると、契約終了を借主に主張できません。また、期間経過後に通知した場合は、通知後6か月は借主に契約終了を主張できません。
(小規模住居用建物の定期借家の解約の特則)
契約期間の定めのある契約は、本来、特約で期間内解約の権利を付与しないと一方的に契約を解約するということはできません。これは定期借家の場合も同じです。しかし、小規模(床面積200平方メートル未満)の居住用建物の定期借家の場合に限り、期間内解約の特約を入れていない場合でも、借主が転勤、療養、親族の介護等やむを得ない事情で、その建物を自己の生活の本拠に利用することができない場合には、借主において解約を申し出ることができるという特則があります。
その場合の解約申し出による契約の終了は、1か月後です。
●終身建物賃貸借契約
「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が平成13年8月5日施行されたことに伴い創設された制度です。高齢者の単身・夫婦世帯等が終身にわたり安心して賃貸住宅に居住できる仕組みとして、高齢者(満60歳以上)または高齢者とともに同居する配偶者(60歳未満の配偶者であっても可、または60歳以上の親族)を賃借人として、その賃借人の終身にわたり住宅を賃貸する事業を行おうとする貸主(終身賃貸事業者)は、当該事業について知事等の認可を受けた場合には、賃借人が死亡した場合に契約が終了する賃貸借契約(借家権の相続権がない一代限りの賃貸借契約、すなわち終身賃貸借契約)を行うことができます。
また、賃借人である高齢者からの申し出により、一定の期間を定めその期間の満了により、またはその間に高齢者が死亡すれば契約が終了する借家契約(期限付死亡時終了賃貸借契約)を行うこともできます。
ただし、同居者(配偶者または高齢者である親族)がいる賃借人である高齢者本人が死亡した場合に、本人死亡後1か月以内に同居者が申し出れば、その同居者は借家を継続できます。
この事業の認可をするには、建物の構造がバリアフリー等加齢対応構造であり、賃貸条件が規準に達し、公正証書などの書面による契約であることなどが必要です。